技能実習
2025.06.11
少子高齢化により深刻な人手不足が続くなか、外国人材の活用は多くの業種にとって不可欠な経営課題となっています。
これまで外国人の受け入れ制度として広く利用されてきたのが「技能実習制度」ですが、その目的や運用には多くの課題が指摘されてきました。
こうした背景を踏まえ、2019年に新設された「特定技能制度」は、より実践的かつ長期的な外国人材活用の道を拓く制度として注目されています。
本記事では、技能実習から特定技能への移行の流れと、企業にとってのメリットをわかりやすく解説します。
目次
外国人技能実習制度は、日本の企業が発展途上国の若者を一定期間受け入れ、実際の業務を通じて日本の優れた技能・技術・知識を学んでもらい、帰国後に母国の産業発展に役立ててもらうことを目的とした公的制度です。
1993年に創設され、国際協力・国際貢献の一環として位置付けられています。
技能実習生は受入企業と労働契約を結んだ上で入国し、原則最長3年間(近年の制度改正で条件を満たせば最長5年まで延長可能)にわたり研修・実習を行います。
技能実習の在留資格には「1号(入国後1年目)」「2号(2~3年目)」「3号(4~5年目)」があり、段階的に技能習熟度を高める仕組みです。
受入れにあたっては、監理団体(事業協同組合や商工会等の非営利組織)が間に入り、実習計画の管理や生活指導などのサポートを行う「団体管理型」が一般的です。
技能実習制度は、日本国内で長年にわたり外国人材を受け入れる仕組みとして運用されてきました。
しかし、その目的と現場での実態との乖離や、労働環境に起因する問題点、企業側の人材活用における制限など、制度設計上の課題が顕在化しています。
ここでは、制度運用の実態に即して3つの主要な課題に分けて見ていきます。
本来の目的である「技能移転による国際貢献」が形骸化し、実質的には日本の労働力確保の手段として利用されている点が課題です。
企業にとって即戦力となる外国人労働力を得る手段になっている一方で、制度上はあくまで「研修生」であるため運用に矛盾が生じています。
報道等でも、受入企業による賃金の未払いや長時間労働、暴言・暴行といった人権侵害事例が度々取り沙汰されています。
技能実習生は原則として転職(受入先の変更)が認められず、不当な待遇を受けても逃げ場がない状況に置かれがちです。
その結果、母国へ送り出す際に背負った多額の借費も相まって失踪や不法就労に至るケースも社会問題化しています。
技能実習は最長でも5年で終了し原則帰国となります。
そのため、企業にとってはせっかく育成した人材を長期的に活用できないというジレンマがあります。
将来の中核人材として育てたくても在留期間に上限があるため、長期的な戦力確保や継続的な技能蓄積が難しいのです。
少子高齢化による人手不足の深刻化に対応するため、2019年に新設されたのが「特定技能制度」です。
従来の技能実習制度が「国際貢献」を名目にしていたのに対し、特定技能制度は明確に「即戦力となる外国人材の就労」を目的としており、より実務に即した制度設計となっています。
ここでは、制度の特徴や、在留資格「1号」と「2号」の違いについて解説します。
特定技能1号は、相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する外国人に付与される在留資格です。
対象となるのは介護や外食業、建設、農業などの14業種で、通算5年までの在留が認められています。
家族の帯同は認められていませんが、技能試験と日本語試験に合格することで取得可能であり、技能実習2号を良好に修了した者は試験が免除されます。
参照:特定技能 ガイドブック
特定技能2号は、特定技能1号よりもさらに熟練した技能を有する外国人に対する在留資格で、現時点では建設・造船など一部の業種に限られています。
在留期間の制限がなく、条件を満たせば更新可能である点が大きな特徴です。
また、配偶者や子どもの帯同が可能となり、より安定的に生活基盤を築ける制度です。
技能実習から特定技能1号への移行では、試験免除の特例を活用することができますが、2号への移行には実務経験と高度な技能試験への合格が必要です。
特定技能制度は、即戦力として外国人を継続雇用したい企業にとって、制度的な柔軟性と長期的活用の可能性を兼ね備えた選択肢といえるでしょう。
技能実習制度から特定技能制度へと移行することで、外国人材の長期的な雇用が可能になります。
ここでは、移行に必要な条件や手続きの流れを解説します。
特定技能1号に移行できるのは、技能実習2号または3号を良好に修了した外国人で、対象業種が特定技能の受け入れ分野に含まれている必要があります。
技能実習で従事していた業種と、特定技能で従事予定の業種が一致していることが前提です。
通常、特定技能1号の在留資格取得には技能試験と日本語試験の合格が必要ですが、技能実習2号を良好に修了した場合には、これらの試験が免除されます。
移行に際しては、技能実習修了証明書や雇用契約書、支援計画書などの書類が必要です。
技能実習生を特定技能外国人として受け入れるためには、在留資格の変更手続きを行う必要があります。
移行の際は、必要書類を揃えて入管に申請し、許可を得ることで特定技能1号としての在留が認められます。
以下に、主な手続きの流れを示します。
これらの手続きを円滑に進めるためには、早めの準備と正確な書類作成が重要です。
参照:特定技能関係の特定活動(「特定技能1号」への移行を希望する場合)
技能実習から特定技能へ移行することは、企業側にとっても多くのメリットがあります。
ここでは、採用・育成・制度運用の観点から具体的な利点を紹介します。
技能実習を通じて現場経験を積んだ外国人材は、既に自社の業務内容や作業手順に習熟しています。
特定技能へ移行することで、こうした人材をゼロから育て直す必要がなく、教育・研修コストを大幅に削減できます。
また、業務の即応性が高いため、新たなスタッフを迎える際に発生しがちな生産性の一時的な低下も回避しやすくなるでしょう。
特定技能1号の在留期間は通算で5年間と比較的長く、2号へ移行すれば事実上の無期限就労も可能です。
これにより、中長期的なキャリア形成や業務スキルの高度化を見据えた人材育成がしやすくなります。
加えて、2号では配偶者・子の帯同が認められるため、外国人本人がより安定した生活基盤を築きやすく、企業への定着率も向上します。
技能実習制度では企業規模に応じた人数枠の制限が設けられていましたが、特定技能ではこうした上限が原則撤廃されています(※一部分野を除く)。
これにより、季節変動や受注増加に合わせた柔軟な人材確保が可能になります。
また、特定技能で受け入れ可能な業種は介護、外食業、農業、建設など16分野にわたり、従来の技能実習ではカバーしきれなかった業務領域への展開も視野に入ります。
技能実習では監理団体が間に入り、制度上の縛りが多く存在していました。
一方、特定技能では企業自身が雇用契約を直接結び、登録支援機関を活用することで支援義務を果たせばよく、運用面での自由度が増します。
たとえば、外国人本人の能力や職場適性に応じて配置転換や待遇改善を行いやすく、より実態に即した人材マネジメントが可能です。
技能実習制度には一定の成果があった一方で、目的との乖離や人権問題、人材の定着難といった課題も多く指摘されてきました。
その代替・発展的制度として登場した特定技能制度は、企業にとって即戦力の確保や長期的な人材活用が見込める柔軟性の高い仕組みです。
技能実習から特定技能への移行は、制度の特例を活用することでスムーズに進められ、企業・外国人双方にとって大きなメリットがあります。
特に、すでに育成した実習生を中長期にわたって戦力として活かせる点は、今後の採用戦略においても重要な選択肢となるでしょう。
受け入れに際しては、登録支援機関との連携を通じて制度運用や生活支援を適切に行うことが不可欠です。
制度の特性を正しく理解し、自社のニーズに即した形で特定技能制度を活用することで、外国人材の力を最大限に引き出すことができます。
特定技能制度の導入や技能実習からの移行に関する詳細なサポートを希望する企業様は、
外国人材支援の専門機関「地場企業振興協同組合(JSK)」にご相談ください。
制度の解説から受け入れ体制の整備、実際の人材紹介まで、幅広く支援を行っています。