技能実習
2026.08.16
建設業界では、人手不足への対応策として外国人材の受け入れが進むなか、2027年4月から「育成就労制度」がスタートします。
育成就労制度は、原則3年間の就労を通じて技能や日本語能力を高め、特定技能1号への移行を見据えて人材を育成する制度です。そのため、企業には採用費だけでなく、日本語教育、技能講習、OJT、資格取得支援、労務管理などのコストが発生します。
「1人あたりどのくらい費用がかかるのか」「何年働いてもらえれば投資を回収できるのか」と気になる企業も多いでしょう。
本記事では、従業員50人程度の建設会社が5人を受け入れるケースを標準モデルとして、採用・教育・管理費を具体的に試算します。さらに、生産性や離職率、賃金水準によってROIがどう変わるのかを比較し、育成就労制度のコストパフォーマンスを検証します。
目次
育成就労制度は、外国人材を原則3年間の就労を通じて育成し、特定技能1号水準の人材確保につなげる制度です。2027年4月1日の施行が予定されています。
建設分野では、技能・日本語能力の向上や資格取得、CCUSを活用した就業履歴の蓄積など、計画的な育成が重要です。そのため、採用時の費用だけでなく、教育や継続的な管理まで含めてコストを考える必要があります。
本記事では、従業員50人程度の建設会社が5人を受け入れるケースを標準モデルとします。年間離職率は2024年の建設業の離職率を参考に10%、生産性は入社1か月目35%、6か月目70%、12か月目85%、24か月目100%と仮定します。
なお、育成就労制度はまだ施行前のため、離職率や生産性は制度の実績値ではありません。あくまでシミュレーション上の仮定として、採用・教育・管理にかかる費用と投資回収の目安を検証します。
育成就労制度は施行前のため、採用・教育・管理費に全国共通の標準価格はありません。本記事では、コストパフォーマンスを検証するため、以下の金額を仮定します。
標準モデルでは、募集・選考や各種手続きなどの採用費を65万円/人、OJTや日本語教育、資格取得支援などの直接教育費を63.6万円/人とし、初期投資を合計128.6万円とします。
さらに、労務・在留管理や定期面談、監理支援などの管理費を月5万円/人と仮定します。
これらは実際の料金ではありません。導入時には、受入人数や職種、教育内容、利用する機関などに応じた実費へ置き換えて試算する必要があります。
ここまでの前提をもとに、「楽観・標準・悲観」の3つのシナリオで投資回収期間やROIを比較します。
| 項目 | 楽観 | 標準 | 悲観 |
|---|---|---|---|
| 初期投資/人 | 105万円 | 128.6万円 | 165万円 |
| 月給 | 26万円 | 27万円 | 30万円 |
| 月次管理費 | 3.5万円 | 5万円 | 7万円 |
| 年間離職率 | 5% | 10% | 20% |
| 12か月時点の生産性 | 95% | 85% | 70% |
| 24か月時点の生産性 | 105% | 100% | 90% |
| 投資回収期間 | 8か月 | 16か月 | 36か月超 |
| 24か月ROI | 56.0% | 20.4% | ▲21.9% |
| 36か月ROI | 71.2% | 35.1% | ▲10.1% |
| 36か月LTV | 890万円 | 449万円 | ▲131万円 |
標準ケースでは、初期投資128.6万円に対して16か月で投資を回収し、36か月ROIは35.1%となる試算です。一方、教育や定着がうまく進まず、生産性の向上が遅れる悲観ケースでは、36か月経過しても投資を回収できません。
つまり、育成就労制度のコストパフォーマンスを左右するのは、採用費の安さだけではありません。採用後にどれだけ早く生産性を高め、長く定着してもらえるかが重要です。
なお、これらは完熟時の月間粗付加価値などにも仮定値を用いたシミュレーションです。実際の導入判断では、自社の人件費や生産性、受入費用に置き換えて試算しましょう。
育成就労制度では、採用費を抑えるだけでなく、生産性の向上や定着率を含めて考えることが重要です。特に、独り立ちまでの期間、離職率、賃金と生産性のバランスが投資回収に大きく影響します。
標準モデルでは、生産性85%への到達が6か月の場合、投資回収は11か月ですが、12か月では16か月、18か月では24か月まで延びる試算です。
教育費を削減しても、独り立ちが遅くなれば投資回収も遅れます。そのため、日本語教育や安全教育、OJTを効率化し、早期に担当業務をこなせる状態へ育成することが重要です。
離職すると、新たな人材の募集や教育が必要になり、採用・教育コストが再び発生します。
特に現場の必要人数を維持する場合は、後任者の生産性も低い状態からスタートします。住居・生活支援や定期面談、キャリアパスの提示などを通じて、長期的に働きやすい環境を整えることがコスト削減にもつながります。
賃金だけを下げればコストパフォーマンスが改善するとは限りません。処遇が悪化すると、採用難や離職、生産性向上の遅れにつながる可能性があります。
資格取得や多能工化によって生産性を高め、それに合わせて処遇も向上させることが、育成就労制度を長期的に活用するうえで重要です。
育成就労では、日本語教育や技能講習、資格取得などに継続的な費用がかかります。一方、国や自治体の助成制度、外部団体の支援を活用することで、一部の負担を抑えられる可能性があります。
建設事業主向けには、人材開発支援助成金の「建設労働者技能実習コース」などが設けられています。対象となる技能講習を有給で受講させた場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
ただし、育成就労外国人が対象になるかどうかは、制度開始後の最新要件を確認する必要があります。
東京都では、外国人従業員への日本語教育や中小企業の研修、資格取得などを支援する助成制度があります。
2026年度には、外国人従業員への日本語教育等を対象に経費の2分の1、標準プランで最大25万円を助成する制度などが実施されています。
育成就労は2027年度から始まるため、実際に利用する際は2027年度以降の対象条件を確認しましょう。
採用や日本語教育、安全教育などをすべて自社で行うと、特に受入人数が少ない企業では1人あたりの負担が大きくなります。
外部団体による共同研修や教育支援などを活用すれば、固定費を抑えながら必要な教育体制を整えやすくなります。研修そのものを減らすのではなく、外部支援を活用して効率化することがポイントです。
育成就労制度のコストパフォーマンスを考える際は、採用費だけでなく、教育費や管理費、生産性の向上、定着率まで含めて判断することが重要です。
今回の標準モデルでは、1人あたりの初期投資を128.6万円と仮定した場合、投資回収期間は16か月、36か月ROIは35.1%となりました。一方、生産性の向上が遅れたり離職率が高まったりすると、投資を回収できない可能性もあります。
育成就労制度の活用を検討している事業者は、技能実習・特定技能の受入支援や職業訓練に取り組む公益社団法人東京都建設事業協会へご相談ください。
制度への対応だけでなく、受入人数や教育体制などを踏まえながら、自社に合った受け入れ方法を検討することが大切です。