技能実習 / 特定技能
2026.05.10
日本の外国人材受け入れ制度が、いま大きな転換点を迎えています。
長年続いてきた技能実習制度に代わって、新たに「育成就労制度」が創設されることが決まりました。
本記事では、育成就労制度の概要を押さえたうえで、企業側のメリット・デメリット、技能実習制度との違い、注意すべきポイントを整理します。
目次
育成就労制度を理解するためには、まず「なぜ今この制度が新設されたのか」「従来制度の何が問題だったのか」を押さえる必要があります。
ここでは、制度創設の背景と、国が育成就労制度に込めた目的を整理します。
技能実習制度は、本来「開発途上国への技能移転による国際貢献」を目的として1990年代に始まりました。
しかし実態としては、慢性的な人手不足を補うための労働力確保手段として運用されるケースもあり、制度の趣旨と現場の運用との乖離が問題視されてきました。
こうした背景を踏まえ、新たに創設されたのが育成就労制度です。
最大の特徴は、制度の目的を「国際貢献」から「人材育成と人材確保」へと明確に転換した点にあります。
外国人材を一時的な労働力としてではなく、日本の産業を支える担い手として育成し、安定的に就労してもらうことを前提としています。
育成就労制度は、2027年ごろの施行が予定されています。
施行後、技能実習制度は段階的に廃止され、最終的には育成就労制度へ一本化される見通しです。
そのため、現在すでに技能実習生を受け入れている企業も、今後は新制度への対応が不可欠です。
育成就労制度を正しく理解するためには、従来の技能実習制度と「どこが、どのように変わったのか」を把握することが欠かせません。
ここでは、企業実務に影響の大きいポイントを中心に、両制度の違いを整理します。
技能実習制度は「開発途上国への技能移転」を目的としていましたが、育成就労制度では日本国内の人手不足分野における「人材育成・人材確保」を正面から掲げています。
これにより、外国人材を「研修生」ではなく、最初から労働力として受け入れる前提に立った制度設計となりました。
技能実習制度では、技能実習1号・2号・3号と段階的に資格が分かれ、更新や手続きがやや複雑でした。
一方、育成就労制度では在留資格は「育成就労」に一本化され、在留期間も原則3年間と明確に定められています。
この3年間で一定の技能と日本語能力を身につけることを前提とし、その後は特定技能へ移行する流れが想定されています。
技能実習制度では、原則として転籍は認められず、例外的な事情がある場合に限られていました。
育成就労制度では、一定の条件を満たせば、本人の意思による転籍が可能となります。
具体的には、一定期間の就労実績に加え、技能試験や日本語試験に合格していることなどが要件とされる見込みです。
技能実習制度では、日本語能力に関する要件はほとんど設けられていませんでした。
育成就労制度では、入国時点で一定レベル以上の日本語能力(初級レベル)が求められる点が大きな変更点です。
これにより、現場での指示伝達や安全管理がしやすくなり、企業側の教育コスト負担の軽減が期待されています。
技能実習制度では、約91職種・168作業が対象とされ、製造業・縫製業・食品加工業など幅広い業種で外国人材を受け入れることができました。
一方、育成就労制度では、受け入れ分野が特定技能制度と同じ16分野に原則統一される予定です。
出典:育成就労制度の概要
育成就労制度は、外国人材を受け入れる企業にとって負担増の側面が注目されがちですが、制度設計を正しく理解すれば、中長期的には人材確保・定着の面で大きなメリットも期待できます。
ここでは、企業実務に直結する主な利点を整理します。
育成就労制度では、入国時点で日本語能力試験N5相当(A1レベル)以上の日本語力が求められる予定です。
技能実習制度では原則として日本語要件がなかったため、受け入れ初期にコミュニケーション面で大きな負担を抱える企業も少なくありませんでした。
新制度では、最低限の日本語理解を前提に受け入れが可能となるため、業務指示や安全管理、生活指導がスムーズになります。
育成就労制度は、3年間の就労期間を通じて外国人材を育成し、その後特定技能1号(最長5年)への移行を想定しています。
さらに、分野によっては特定技能2号へ進むことで、在留期限の制限なく就労を継続することも可能です。
技能実習制度では「一定期間で帰国する前提」があったため、十分に育成しても定着しないという課題がありました。
育成就労制度では、最大8年以上の継続就労、将来的には長期定着も視野に入るため、企業は計画的な人材育成と戦力化を進めやすくなります。
技能実習制度では、実習計画で定められた作業以外に従事させることが原則禁止されており、現場の状況に応じた柔軟な配置が難しいケースがありました。
育成就労制度では、労働者としての位置づけが明確になるため、日本人従業員と同様に幅広い業務に従事させることが可能となります。
制度改革により、転籍の自由度向上や手数料負担の見直しなど、外国人材側の労働環境が改善されることが見込まれています。
これにより、日本での就労を選択肢として検討する外国人が増え、人材の母集団の質・量が向上する可能性があります。
企業にとっては、意欲や定着意識の高い人材を確保しやすくなる点もメリットといえるでしょう。
育成就労制度は人材確保につながる一方で、企業側には新たな負担やリスクも生じます。
ここでは、特に注意すべき2点について解説します。
育成就労制度では、渡航費や日本語教育費、育成計画の作成・管理など、受け入れにかかるコストを企業が負担する場面が増えると見込まれています。
技能実習制度と比べ、外国人本人への金銭的負担を抑える設計となっている分、企業側の初期費用や運用コストは上昇しやすくなります。
育成就労制度では、一定条件を満たした外国人材に転籍が認められます。
これは労働者保護の観点では重要ですが、企業側にとっては育成した人材が他社へ移るリスクを伴います。
特に、賃金や労働条件に差がある場合、育成後に転職される可能性も否定できません。
育成就労制度を導入する際は、制度の概要理解だけでなく、「自社で本当に運用できるか」「既存の人事・労務体制で対応可能か」という視点が欠かせません。
ここでは、導入判断に直結するポイントを整理します。
育成就労制度導入を検討する前提として、自社の業務内容が対象分野・業務区分に該当するかを具体的に確認する必要があります。
単に「製造業」「サービス業」といった大枠ではなく、実際に外国人材に従事させる予定の業務が、分野別運用方針に合致しているかが判断基準となります。
育成就労制度では、外国人材を「即戦力として使う」よりも、「段階的に育成し、評価する」ことが制度上求められます。
そのため、業務習熟度や日本語能力をどのように確認・評価するかを社内で定めておく必要があります。
また、育成の進捗が特定技能への移行可否にも影響するため、評価基準が曖昧なまま受け入れると、トラブルやミスマッチにつながるリスクがあります。
既存の人事評価制度との整合性を含め、事前の設計が求められます。
育成就労制度では、企業単独で制度運用を完結させるのは難しく、監理支援機関や行政書士など外部専門家との連携が実務上不可欠となります。
特に、制度開始直後は運用ルールが固まりきっていない可能性もあるため、最新情報を把握し、適切な助言ができる支援先を選ぶことが重要です。
育成就労制度は、短期的な人手不足解消策として導入すると、コストや管理負担が重く感じられる制度です。
一方で、中長期の人材確保・定着戦略として位置づけることで、制度の価値が最大化されます。
「どのポジションで育成し、どの段階で戦力化するのか」といった視点を持つことで、制度導入の判断軸が明確になります。
育成就労制度によって人材確保の選択肢が広がる一方で、制度理解や受け入れ体制の整備がこれまで以上に重要になります。
「自社が対象となるのか」「どの制度を選ぶべきか」といった判断に迷う場面では、制度に精通した外部機関へ早めに相談することが大切です。
外国人技能実習生の受け入れを検討している企業にとって、公益社団法人東京都建設事業協会は有力な相談先の一つです。
60年以上にわたり公共事業を支えてきた公益法人としての信頼性に加え、優良監理団体として外国人技能実習制度の受け入れ支援を行ってきた実績があります。
信頼できる支援機関に相談しながら、自社に合った外国人材活用の形を検討していきましょう。