技能実習
2025.05.29
外国人材の受け入れ制度として長年運用されてきた「技能実習制度」が、2027年を目処に廃止され、新たに「育成就労制度」へ移行することが決定しました。
背景には、制度の趣旨と現実の乖離、不適切な労働環境の問題、そして人材の定着支援に対する不備といった長年の課題があります。
育成就労制度は、単なる労働力確保にとどまらず、外国人材を計画的に育成し、日本社会に長期的に定着してもらうことを目的に設計されています。
本記事では、制度の概要から、技能実習制度との違い、企業にとっての影響、対応のポイントまでを解説します。
自社の人材戦略を見直すうえで、ぜひ参考にしてください。
目次
2027年の施行を目指して創設された「育成就労制度」は、従来の技能実習制度を廃止し、外国人材の受け入れ制度を抜本的に見直すものです。
人材育成と人材確保を両立するこの新制度は、企業にとっても人事戦略を再設計する重要な転換点となります。まずは制度の目的と構造について、基礎から確認していきましょう。
育成就労制度は、現行の技能実習制度に代わる新たな外国人受け入れ制度として、2024年に関連法が可決・成立し、2027年の施行が予定されています。
政府が制度創設に踏み切った背景には、「技能移転による国際貢献」を建前としていた技能実習制度と、実態としての外国人労働力確保とのギャップがあります。
育成就労制度の根本的な目的は、特定産業分野における人手不足の解消と、将来的な戦力となる外国人材の計画的な育成です。
従来の技能実習制度とは異なり、実践的な労働を通じて段階的にスキルを習得してもらい、就労を通じて日本社会に定着してもらう仕組みへと大きく舵が切られました。
企業にとっては、単に人材を一時的に受け入れるのではなく、育成と定着を前提に人事戦略を構築することが求められます。
育成就労制度では、外国人が日本国内の受入れ企業で原則3年間就労・研修を行い、その期間中に「特定技能1号」への移行に必要な技能・日本語能力を身につけることを想定しています。
期間中は、法務省と厚生労働省が所管する「外国人育成就労機構」の管理のもと、認定された監理支援機関と受入企業が連携して、育成計画に基づいた支援・教育を実施します。
この新制度により、外国人材は制度終了後に特定技能として在留継続できるキャリアパスを描けるようになり、企業側も長期的な人材確保が可能となります。
日本語能力の要件も明確化されており、入国時点で日本語能力試験N5程度、終了時にはN4レベルへの到達を目指す計画が想定されています。
新制度を理解するうえで重要なのが、従来の技能実習制度との具体的な違いです。
制度の目的や転籍の可否、対象職種、在留期間など、多くの項目において見直しが図られています。
ここでは主な相違点を整理し、企業にとっての実務的な影響を確認していきます。
技能実習制度は「国際貢献」を目的に設計されており、あくまで途上国への技能移転が建前でした。
一方で育成就労制度は、国内の人手不足を背景に、明確に「人材確保と育成」を目的とした制度です。
技能実習は1〜3号の段階を経て最大5年間の滞在が可能でしたが、転籍は原則不可でした。
育成就労では原則3年間の在留で、条件を満たせば転籍も可能となります。これにより、より柔軟な人材配置が可能になります。
技能実習制度では約90職種が対象でしたが、育成就労では「特定技能」と同様の16分野に限定されます。
また、終了後は特定技能1号への移行が前提とされており、制度間の連携が強化されています。
これまで明文化された要件がなかった日本語能力についても、育成就労制度ではN5以上を入国要件とし、3年間でN4水準までの到達を目標としています。
企業にも一定の語学教育支援が求められるでしょう。
監理団体が主導していた旧制度と異なり、新制度では「監理支援機関」が企業と協働しながら育成計画を進めていく体制が整備されます。
より透明性と実効性のある監理が期待されています。
項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度 |
---|---|---|
目的 | 技能移転・国際貢献 | 人材確保と育成 |
在留期間 | 最大5年(1〜3号) | 原則3年 |
転籍 | 原則不可 | 一定条件で可 |
対象職種 | 約90職種 | 特定技能と同様の16分野 |
日本語要件 | 実質なし | N5(入国)→N4(目標) |
管理体制 | 監理団体 | 監理支援機関(許可制) |
終了後の進路 | 原則帰国 | 特定技能1号への移行 |
このように、育成就労制度は制度設計の根幹から見直されており、企業が従来通りの受け入れ体制で臨むことは難しくなります。
対象業種や雇用形態、研修計画、語学支援体制までを含めた対応が求められるため、早期の準備が重要です。
制度の理解において欠かせないのが、施行のタイミングと移行スケジュールの把握です。
2024年の法改正を受けて、育成就労制度は段階的に導入される見通しであり、現行の技能実習制度との並行期間も一定期間設けられます。
企業はこのタイムラインを把握したうえで、計画的な準備を進める必要があります。
制度施行から完全移行までにおよそ3年の猶予があるとはいえ、技能実習制度と育成就労制度が併存する過渡期においては、制度変更に伴う実務への影響が少なくありません。
たとえば、受入対象職種の変更や転籍制度への対応、日本語教育支援の体制整備などが必要です。
また、現行の監理団体との契約内容や運用実績の見直しも求められる可能性があり、新たな「監理支援機関」への移行準備も必要になるでしょう。
政府から順次発表される省令・ガイドラインに基づき、社内フローや書類様式の見直しを進めることが推奨されます。
今後は、法務省・厚生労働省・外国人育成就労機構などの公的機関から発信される最新情報を随時確認し、自社の受入れ体制にどのような変更が求められるのかを早期に把握することが重要です。
育成就労制度は、特定技能制度と密接に連携するかたちで設計されています。
新制度の理解を深めるには、この関係性を把握しておくことが不可欠です。
育成就労制度は、特定技能1号への移行を前提とした仕組みです。
育成期間中に定められた技能水準や日本語能力(例:技能評価試験や日本語試験)をクリアすることで、外国人労働者は特定技能1号に移行し、引き続き日本での就労を継続できます。
特定技能1号の在留期間は最長5年であり、一定の分野ではその後に特定技能2号(在留期間の更新制限なし、家族帯同可)への移行も可能です。
これにより、外国人材は中長期的なキャリアを日本で築く道筋を描きやすくなります。
特定技能制度は、即戦力となる外国人材を受け入れるための制度であるのに対し、育成就労制度は「育成」期間を設ける点に特徴があります。
そのため、企業は状況に応じて、短期的には特定技能1号での直接採用、長期的には育成就労を通じた人材育成というように、制度を使い分けることが可能です。
項目 | 育成就労制度 | 特定技能制度 |
---|---|---|
主な目的 | 人材の計画的育成 | 即戦力の確保 |
在留期間 | 原則3年 | 最大5年(1号)+ 無期限(2号) |
家族帯同 | 不可 | 2号は可 |
日本語要件 | 入国時N5、終了時N4目標 | 試験合格レベル(N4相当) |
移行の可否 | 特定技能1号への移行が前提 | 他在留資格からの移行可 |
育成就労制度は、特定技能制度にスムーズにつなげるための基礎的なプロセスであり、両制度を段階的に活用することで、企業は人材の確保から育成・定着までを一貫して進めることができます。
特に、将来的に特定技能2号や永住資格取得を目指す外国人材にとっては、育成就労を出発点とすることが有効です。
企業としては、制度間の特徴を理解したうえで、どのような人材戦略を描くかを明確にし、それに応じた制度活用の設計が求められます。
育成就労制度では、受け入れ可能な業種が特定技能制度の対象と原則一致することが想定されており、制度の透明性と一貫性を高める設計となっています。
現在、育成就労制度で受け入れが可能とされている主な分野は以下の16業種です(特定技能制度と同様)。
これらの分野はいずれも、深刻な人手不足が課題とされている業界であり、技能実習制度時代から外国人材の活用が進められてきた実績があります。
農業や漁業など、季節性や地域性が強い分野については、特例として派遣形態による受け入れが認められる可能性も示されています。
これにより、繁忙期に人材を柔軟に確保できる体制の整備が期待されています。
一方で、従来技能実習制度で受け入れが可能だったものの、新制度では対象から外れる可能性がある職種(例:一部の小売業や単純作業に近い業務)については、受け入れ要件の確認が必要です。
制度の正式な運用指針や分野別運用方針の発表を注視し、事前に対応の可否を見極めることが求められます。
制度の対象職種が特定技能制度と連動することで、育成後のスムーズな資格移行が可能となり、外国人材のキャリアパスを明確に描きやすくなります。
企業としても、分野ごとの就労要件や在留管理の違いを理解し、分野別の制度対応を進めておくことが重要です。
育成就労制度は、外国人材を「育てて活躍してもらう」ことを重視した新たな枠組みです。
2027年の本格施行に向けて、対象分野の確認、転籍対応、日本語教育、監理支援機関との連携など、今から準備できることは多くあります。
特定技能との接続も意識しながら、長期的な人材戦略を検討しましょう。
なお、制度導入に向けた情報収集や専門的なサポートをお探しの場合は、
外国人技能実習生、事業職業訓練の監理団体として長年の実績のある
「公益社団法人東京都建設事業協会」の活用もおすすめです。
最新制度への対応支援や監理支援機関との連携など、導入準備を総合的にサポートしてくれます。
制度改革の本質を踏まえ、持続可能な人材戦略を描いていきましょう。