技能実習
2025.09.13
日本では深刻な人手不足が続くなか、外国人材の受け入れと共生が、社会の持続可能性を左右する重要なテーマとなっています。
とりわけ2024年に創設が決定した「育成就労制度」は、これまでの技能実習制度に代わる新たな枠組みとして注目を集めています。
本記事では、企業の人事担当者に向けて、育成就労制度の概要や制度改正の背景、企業にとってのメリット・留意点、そして外国人材との共生社会に向けた展望について解説します。
単なる労働力としてではなく、「ともに働き、ともに生きる」時代を見据えた実務的な視点で制度を捉えるヒントをお届けします。
目次
2024年6月に公布された「育成就労制度」は、これまで30年近く運用されてきた技能実習制度に代わる新制度です。
制度の目的を「技能移転」から「人材育成・人手不足対策」へと明確に転換し、日本国内の雇用制度としての機能を強化するものです。
これまでの技能実習制度は、「開発途上国への技術移転」を目的に設計されており、制度上はあくまで「研修生」を受け入れる形式でした。
しかし実態としては、多くの業界で人手不足を補うための労働力として機能しており、「名目と実態の乖離」が国際的な批判を招いていました。
育成就労制度ではこの矛盾を解消し、最初から「育成を伴う就労制度」として設計されています。主な相違点は以下のとおりです。
比較項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度 |
---|---|---|
制度目的 | 技能移転(国際貢献) | 人材育成+人手不足解消 |
在留期間 | 最長5年(特定技能に移行可) | 最長3年(特定技能に移行可) |
転籍 | 原則禁止 | 一定条件で可能 |
監理団体 | 許可制 | 許可制(監理支援機関) |
計画制度 | 技能実習計画 | 育成就労計画 |
このように、制度の目的・構造が大きく変わったことで、受け入れる企業の姿勢や準備も変化が求められることになります。
日本における育成就労制度の創設は、国内の深刻な人手不足と、これまでの制度運用に対する反省を背景とした政策転換の結果です。
特に、労働力人口の減少や国際的な批判を受け、外国人材との「持続的な共生」を見据えた制度設計が求められるようになりました。
技能実習制度は1993年に創設され、当初は発展途上国への技術移転を目的とした制度としてスタートし、現在に至ります。
しかし実際には、農業・建設・介護・製造業などの現場で人手不足を補うための制度として広く使われてきました。
このような制度運用の実態に対し、以下のような批判が寄せられていました。
名目上は研修なのに、実態は労働
原則転籍不可で、パワハラや過酷な労働環境から逃れられない構造
送り出し国で高額な手数料を徴収されるなどの人権侵害
実習終了後は帰国が前提で、企業・本人双方にとって不安定
こうした問題は国際的にも注視されており、ILO(国際労働機関)や各国政府、国連機関などからも是正を求める声が上がっていました。
日本では、少子高齢化によって労働力人口が年々減少しており、特に以下のような業種では慢性的な人手不足が深刻です。
介護・福祉分野
農業・畜産業
建設・インフラ整備
製造業(特に中小製造業)
こうした業種は、国内人材だけでは人手を確保できない構造的な課題を抱えており、外国人材の戦力化が不可欠になりつつあります。
政府はすでに2019年から「特定技能制度」を導入しており、育成就労制度はその“入り口”として位置づけられる形になります。
つまり、「育成就労 → 特定技能1号 → 特定技能2号」というキャリアステップを制度化し、優秀な人材に日本で長期的に定着してもらう仕組みが整いつつあるのです。
外国人材の獲得は、今やアジア諸国間での競争です。
賃金だけでなく、「働きやすさ」「安心して暮らせる環境」「明確なキャリア形成」が求職者の選択基準になっています。
制度改革は、単に企業の人手不足を補うためのものではなく、外国人にとっても魅力ある選択肢としての「日本」を実現するための第一歩といえるでしょう。
育成就労制度は、制度目的を明確にしたことで、企業側にとっても利便性や安定性の高い制度として活用が期待されます。
特に「人手不足対策」と「中長期的な人材戦略」の観点から、大きく3つのメリットが考えられます。
従来の技能実習制度では、最長5年で帰国が原則とされていたため、「せっかく育てた人材が帰国してしまう」「継続雇用ができず業務が断絶する」といった課題がありました。
一方、育成就労制度では、3年間の育成期間を経たのち、「特定技能1号」に移行することで、同一業種・職場での長期的な雇用継続が可能になります。
さらに、特定技能2号まで進めば、在留資格更新の上限がなくなり、事実上の定住も視野に入る制度設計です。
これにより、企業は外国人材を一時的な労働力ではなく、中長期的な戦力として位置づけやすくなります。
育成就労制度では、外国人一人ひとりに対して「育成就労計画」の作成と認定が義務付けられます。
これにより、曖昧だった業務内容・指導責任・評価方法が明文化され、監理支援機関による監査やフォローアップも制度化されます。
また、以下のような制度改善により、企業にとってのリスクヘッジ効果も見込まれます。
高額な手数料徴収の抑制(上限制・監視体制)
転籍の柔軟化によるトラブル回避
監理支援機関の「許可制」による質の担保
企業間の連携による人材の有効活用
これにより、制度不備による不適切な受け入れ・労務問題・行政処分などのトラブルを未然に防ぐことができます。
外国人材の受け入れは、単なる人手補充にとどまらず、組織に新しい価値観や視点をもたらすきっかけになります。
異文化に触れることで、社員の多様性への理解が深まり、業務や対人対応にも良い影響を与えるでしょう。
また、外国人ならではの視点がチーム内に新しい発想や柔軟な雰囲気を生み出し、企業の採用力や社会的評価の向上にもつながります。
とくにSDGsやダイバーシティが重視される時代において、外国人材の育成と定着に取り組む企業は、より高い評価を得られる可能性があります。
育成就労制度を活用するにあたり、受け入れ企業側には一定の責任と準備が求められます。
単に外国人材を「雇う」だけではなく、「育成し、働きやすい環境を整える」ことが制度の中核にあるためです。以下では、実務上の主な留意点を3つの観点から解説します。
育成就労制度の利用にあたっては、企業が制度上の要件を満たすことが前提となります。
対象となる業種は、介護や農業、建設、食品製造など、人手不足が深刻な分野が中心となる見込みで、政府があらためて定めます。
外国人材を受け入れる企業は、業務内容や育成期間、日本語支援や技能評価の方法などをまとめた「育成就労計画」を作成し、出入国在留管理庁の認定を受ける必要があります。
また、多くの中小企業では、許可制へ移行した監理支援機関と連携し、適切な支援体制のもとで受け入れを進めていくことが求められます。
育成就労制度では、「生活支援」も企業の役割として明確に求められています。
とくに、初期段階でのサポート体制の構築は、外国人材の定着に直結します。
住居の手配(寮・民間住宅)や契約支援
生活オリエンテーション(ゴミ出し、交通マナー、買い物、行政手続き)
日本語教育(入国前に100時間以上の学習を義務化する方向)
相談窓口の設置(母語対応が望ましい)
通訳・翻訳の整備(業務指示、社内文書の理解支援)
これらの取り組みは、単に労務管理の一環ではなく、職場における「安心感」や「働きやすさ」を実現する基盤となります。
外国人材と円滑に働くためには、文化や宗教への理解と配慮が不可欠です。
たとえば、食事の制限や礼拝、服装、休日など、それぞれの背景に応じた柔軟な対応が求められます。
また、日本特有の曖昧な指示や「空気を読む」前提のコミュニケーションは誤解を招く原因となるため、誰にでもわかりやすく伝える工夫が必要です。
外国人材の定着を図るには、キャリアの見通しを明示し、将来的に特定技能や正社員として活躍できる可能性を示すことも効果的です。
外国人に成果を過度に期待しすぎず、企業全体で「育てる姿勢」を持つことが、制度を活かすための鍵となります。
育成就労制度は、外国人材を一時的な労働力ではなく、育成し共に働く人材として受け入れる制度です。
企業には、雇用の枠を超えた教育・生活支援の視点が求められています。
さらに、人材の確保と育成を進めるうえでは、信頼できる支援団体によるバックアップも重要です。
中でも公益社団法人東京都建設事業協会では、人材育成と技術支援に取り組み、優良監理団体として技能実習1号〜3号の監理を行っています。
制度運用における実績とノウハウを活かし、企業の外国人材受け入れを支援している団体です。
育成就労制度の導入に向けた準備や、外国人技能実習の受け入れを検討している企業の方は、ぜひ一度、東京都建設事業協会へご相談ください。